2009年01月01日
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オルランドとオート・ガーディアン (中編)

Written By: 遠野秋彦連絡先

 (前編より続く)

 オート・ガーディアン級は集結し、人工惑星のアラート受信を確認すると、艦隊を組んで設営中の基地と敵艦隊に向けて攻撃を開始した。

 その圧倒的な攻撃力と防御力は、もはや侵略者の撃退などという生やさしい状況を生み出しはしなかった。実際に12隻のオート・ガーディアン級が引き起こしたのは「殺戮」としか言いようのない事態であった。

 この過剰とも言える戦闘力にはもちろん複雑な経緯がある。

 オート・ガーディアン級の原型となったのは2Kクラスのバトルクルーザーの後継艦の設計案であるが、この設計案を巡る暗闘が問題だったのである。

 連合防衛軍の対ベーダー戦の主力は、もちろんカズサ級とも呼称される2Kクラス・バトルクルーザーだった。

 このタイプの設計はもちろんオルランドが行ったものだ。オルランドの技術優越は、他国が類似艦を設計できないほど隔絶していたので、オルランドの設計による艦を各国で建造することは唯一の選択肢であったのだ。もちろん、各国はそれを歓迎した。なぜなら、圧倒的に進んだテクノロジーを、バトルクルーザー(当初はバトルシップ)の建造を通じて得ることができたからだ。

 本当ならオルランド内で秘匿したい技術情報が漏れ放題、ということで世界各国はこの状況を歓迎した。

 この第1次防衛力整備計画時代、オルランドが担当した予算や軍事力は全連合防衛軍の僅か1割に過ぎないものだった。

 ところが、第2次防衛力整備計画の時代になるとオルランドとそれ以外の全世界の担当分は拮抗してしまう。ねずみ算式に増える自動採掘精錬システムが、宇宙のあちこちに広がり、膨大な資源を生み出し始めたからだ。

 そして、第3次防衛力整備計画の時代になるとオルランドの担当分は全連合防衛軍の8割を突破していた。

 この状況に恐怖したのは、世界各国、特に大きな国家連合を構成する国々だった。対ベーダー戦が終結した後、オルランドにばかり功労があったことになると、非常に良くないことになる。何しろ、全世界はオルランドを「無かったことにする」という政策を採り続けてきた負い目があるのだ。

 かといって、今更資源争奪戦に出るのも手遅れだった。手近な資源のある天体は全てオルランドの自動採掘精錬システムが稼働中であり、自己増殖するそのシステムは更に新しい天体を発見し続けていたのだ。

 とすれば、存在や貢献をアピールする手段は「設計」という分野で示すしかなかった。そのためには、連合防衛軍の主力兵器である2Kクラスの後継艦を設計するのが最良の選択であった。

 そこで、欧州連合と北米連合は、それぞれポスト・カズサ級の設計合戦に名乗りを上げたのだ。

 では、2Kクラスには設計を改めるだけの問題があったのだろうか。

 それは「あった」と言える。なぜなら、戦況が苦しい時代に「単艦で全ての状況に対応しうる」という目標を掲げて設計された2Kクラスには、明らかに過剰と思える装備がそこかしこにあったからだ。たとえば、戦闘レンジが異なる艦載機と大口径主砲のどちらも装備することは、全装備を有効活用することの難しさを発生させていた。また、対地爆撃装備のような、どう考えても搭載したアタッカーに爆撃させる方が遙かに良好な装備も搭載されていた。

 それなりの規模の戦力を整備できるようになった当時としては、過剰な万能艦よりも、各役割に徹したシンプルな艦を多数、という意見も強く出ていた。

 従って、2Kクラスの改設計は避けて通れない必須の問題として取りざたされていた。

 このような状況を背景に欧州連合が提案したのは、従来の宇宙艦の概念を打ち壊す画期的な無砲身砲を主砲とした球形戦艦であった。歴史的に戦艦に革命を起こした艦の名をもらい、名をドレッドノート級と称した。2Kクラスの僅か7割の質量で、2Kクラスを上回る戦闘力を発揮するとされた。徹底的に最適化された形状と設計がそれを可能としたのである。

 一方、北米連合が提案したモンタナ級は、未成に終わった合衆国最大の戦艦の名を踏襲し、2Kクラスの5割り増しである全長3kmの巨体を与えられていた。ドレッドノート級と異なり、技術的な革新性は無かったが、2Kクラスを圧倒的に凌駕する攻撃力と防御力は、2Kクラスを簡単にひねり潰すと言われた。それにも関わらず、効率的な設計により、2Kクラスと同等の予算で建造できるとした。

 これらの提案を受けて苦慮したのはオルランドである。完全に自動化された製造システムで兵器を量産するオルランドにとって、全く異なる設計の新兵器など混乱の元凶でしかなかったからだ。無人で稼働する生産システムの全面再設定とは、生産ラインを全て作り直して再立ち上げするのに等しい莫大な手間とコストを要する出来事になっていたのである。

 むろん、その状況は欧州連合や北米連合もよく承知していた。つまり、オルランドを弱体化させる戦略の一環だったのである。

 このような状況下で、オルランド自身もポスト・カズサ級の設計戦争に参戦せざるを得なくなる。オルランド自身が可能な限り建造を避けたい艦種であるにも関わらず、である。

(後編に続く)

(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)

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